ダラス・バイヤーズクラブ(Dallas Buyers Club)
2013年 アメリカ 1時間57分【R15+】
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
脚本:クレイヴ・ボーテン
メリッサ・ウォーラック
キャスト:マシュー・マコノヒー
ジェファニー・ガーナー
デニス・オヘア
あらすじ
1980年代のテキサス州ダラス。主人公のロンは、賭博と酒と女とドラッグにまみれたデタラメな日々を送っていた。
ところが、ある日突然「あなたはHIV陽性で、残された時間は30日」だと宣告される。しかし、ロンは落ち込むどころか特効薬を求めて東奔西走。
アメリカには認可治療薬が少ないことを知った彼は、世界中を飛び回り本国への密輸を試みる。薬を国内に持ち込んだ彼は、同じくHIV患者で同性愛者のレイヨンと「ダラス・バイヤーズクラブ」という組織を立ち上げ、同じようにHIVに苦しむ患者たちに薬をさばき始める。
しかし、彼の前に立ちはだかったのは、AZTの投薬を推奨し始めた医師と製薬会社、そして政府だった。
感想
あらすじだけ読んで勝手にコメディだと思っていたのですが、思いっきり社会派の映画です!
実話とは知らずに見たので、最後エンドロールで流れる後日談を見て、めちゃくちゃびっくりしました。素晴らしい映画!!
余命30日という宣告を受け自暴自棄になってもなお、死ぬ覚悟よりも一生懸命生きる方法を探すロンの姿は、「もっと大切に生きよう」という気持ちにさせてくれます。
また物語が進むにつれて、主人公の価値観がどんどん変わります。
当時HIVやエイズは男性の同性愛者または薬物常用者(注射針の使い回し)に限定されており、女好きのロンはあからさまに同性愛者を嫌っていました。
しかし、同じ病気で苦しむレイヨンと過ごすにつれて、同性愛者に対する偏見や、ドラッグへの見方が変わっていくロンが、見ていてとても気持ちが良かったです。
そして、役作りが半端ない!
ロン(マシュー・マコノヒー)とレイヨン(ジャレッド・レト)は共にアカデミー賞とゴールデングローブ賞で主演男優賞、助演男優賞を受賞しています。
なんと2人とも役作りで約20kgほど減量したんだとか!
とても壮絶な役作りだったと思いますが、2人のこの作品にかける想いが伝わってきます。
「ダラス・バイヤーズクラブ」とAZT
最後に、この映画で取り上げられているAZTという薬についてお話しします。
80年代前半に急増したHIVは、当時治療薬がなく「死の病」でした。
そんな中、当初抗ガン剤として開発されたAZTに、抗HIVの作用があることが発見され、1987年に世界初の抗HIV薬としてアメリカで処方されるようになりました。
当時、世界初の抗HIV薬ということでマスコミにも取り上げられ、エイズの恐怖から逃れられるかのように思われました。
しかし、発売されて間もなく、「すべての人に効くわけではない」「副作用により続けられない人がいる」「そのうち薬の耐性ができ効果なくなる場合が多い」ことが分かり、かえってエイズで苦しむ患者たちの命を蝕んでいきます。
それでも、少なくとも人の命が救えますし、製薬会社は巨額の富を得ることができる。そして、HIV患者はAZTしか使えないような環境に追い込みます。
薬とは一体何なのか、誰のためにあるのか全くわかりません。
規制や規約に縛られず、彼のように「薬を選ぶ自由」を訴えられるような人間が増えるといいなって思いました。